平中物語
また、この男、「仏に花奉らむ」とて、山寺に詣でけり。
住む隣に、をかしきたはぶれこと言ひかはす人、かれもこれも、門(かど)より出で合ひて、男がり、女、「いづちぞ」と言ひおこせたりければ、「紅葉(もみぢ)濃き山へなむ」とて、
散るをまたこきや散らさむ袖広げ拾ひや止めむ山の紅葉を
「いかがはせむ。のたまはむに従はむ」と言へば、女、
わが袖と付くべきものと一つ手に1)山の紅葉よ余りこそせめ
となむ。返し勝りなりける。
人にもしられてあひかたらひける又この男 仏に花たてまつらむとて山てらにまうてけ りすんとなりにおかしきたはふれこといひ かはす人かれもこれもかとよりいてあひて/45ウ
おとこかり女いつちそといひおこせたり けれはもみちこきやまへなんとて ちるをまたこきやちらさむそてひろ けひろいやとめん山のもみちを いかかはせんのたまはむにしたかはむといへは 女 わかそてとつくへきものと人つてに山 のもみちよあまりこそせめ となむかへしまさりなりける又このをとこ/46オ