平中物語
また、この男、院の御門1)、召して、「御前に菊を植ゑさせ給はむ。おもしろき菊奉れ」と仰せ事承りてまかづるに、また召し返して、「その奉らむには、言付け奉らずは、納め給はじ」とありければ、かしこまりて、まかでて、かくなん、
秋をおきて時こそありけれ菊の花うつろふからに色のまされば
とて、奉りける。
けるくちをしくしらせてやみにけり又/26オ
このおとこ院のみかとめして御前にき くをうゑさせたまはんおもしろききく たてまつれとおほせ事うけたまはりて まかつるに又めしかへしてそのたてまつらむ にはことつけたてまつらすはおさめたまは しとありけれはかしこまりてまか ててかくなん あきをおきてときこそありけ れきくのはなうつろふからに色のまされは とてたてまつりけるこのおなしおとこ/26ウ