目次

平中物語

第14段 またこの同じ男友達どもあまたものして日の暮れにければ・・・

校訂本文

また、この同じ男、友達ども、あまたものして、日の暮れにければ、1)帰り来るに、道のほどに、ある人の言ひける。「名もあるものを、ここら来てや、ただに帰らむ。『この花の飽かぬに帰る』こと詠まむ」。「げにげに2)、さ言はれたり」とて、集まりて、まづ、平中、

  花に飽かで何帰るらむ女郎花多かる野辺に寝なましものを

と詠みけり。いまかたへの人々も詠みけり。

翻刻

はしとてをとこやみにけり又このおなしをとこ/20オ
ともたちともあまたものしてひのくれにけ
れはわつらはしとておとこやみにけりまたこの
おなしおとこともたちともあまたものしてひ
のくれにけれはかへりくるにみちのほとに
ある人のいひけるなもあるものをここらきて
やたたにかへらむこのはなのあかぬにかへること
よまむけにてけにさいはれたりとてあつまりて
まつへいちう
  はなにあかてなにかへるらむおみなへし
  おほかる野へにねなましものを
とよみけりいまかたへの人々もよみけりまた/20ウ
1)
底本、以下「わつらはしとておとこやみにけりまたこのおなしおとこともたちともあまたものしてひのくれにけれは」と続くが、衍文。
2)
底本「けにて」。