平中物語
また、この男、なほざりにもの言ふところありけり。
夏の夜の、月いとおもしろきに、「来む」と言へりければ1)、女、言ひやる。
ほととぎすいづれの里を見ざりけむあまたふる巣と聞けば頼まず
男、返し。
鳴きふる巣里やありけんほととぎすわが身ならぬをいかが答へむ
とのみ言ひやりて、やみにけり。
にけなしといひけれはいひやみにけりまた このおとこなをさりにものいふところあり けり夏の夜の月いとをもしろきにこむとい いへりけれは女いひやる ほとときすいつれのさとを見さりけむ あまたふるすときけはたのます をとこかへし なきふるすさとやありけんほとときす わか身ならぬをいかかこたへん/19オ
とのみいひやりてやみにけりこのおとこ/19ウ