平中物語
また、この同じ男、この二年(ふたとせ)ばかり、もの言ひすさぶる人ぞありける。「いかで、なほ対面せむ」といふ心ぞ、せちにありける。
返り事に、女、かくなむ。
わたつ海の底にあれたるみるめをば三年(みとせ)漕ぎてぞ海人(あま)は刈りける
男、返し
うらみつつ春三返りを漕がむ間に命絶えずはさてややみなん
かかるほどに、この男、「死ぬべく病みてなむ」と告げければ、問はでやみにければ、さて、やみにけり。
おもひてやみにけり又このおなし男 このふたとせはかりものいひすさふる人 そありけるいかてなをたいめんせむ といふこころそせちにありける返ことに女 かくなん/10ウ
わたつうみのそこにあれたるみるめを はみとせこきてそあまはかりける おとこかへし うらみつつはるみかへりをこかむまにいの ちたえすはさてややみなん かかるほとにこのおとこしぬへくやみて なむとつけけれはとはてやみにけれは さてやみにけり又このおとこ正月のついたち/11オ