世継物語 ====== 第53話 伊勢の御息所七条のきさいの宮に候ひ給ひけるころ・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 今は昔、伊勢の御息所、七条のきさいの宮に候ひ給ひけるころ、枇杷の大納言、忍びて通ひ給ひけり。女、いみじう忍ぶとすれど、みな人知りぬ。さるほどに忘れ給ひぬれば、   人知れずやみなましかば侘つつもなき名ぞとだに言はまし物を と詠みて遣りたりければ、「あはれ」とや思えけん、帰りて、いみじう思して住み給ひけり。 「ほに出て人を」と詠みたるも、この大臣(おとど)におはす。 ===== 翻刻 ===== いまは昔伊せのみやす所七条のきさいの宮にさふ らひ給ひける比ひわの大納言忍ひてかよひ給けり 女いみしう忍とすれとみな人知ぬさる程にわすれ/38ウ 給ひぬれは 人しれすやみなましかは侘つつもなき名そとたにいはまし物を とよみてやりたりけれは哀とや覚えけん帰りていみし う覚して住給ひけりほに出て人をとよみたるも このおととにおはす/39オ