世継物語 ====== 第21話 一条院の御時方弘とていみじく人に笑はるる蔵人ありけり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 今は昔、一条院の御時、方弘(まさひろ)とて、いみじく人に笑はるる蔵人ありけり。親などもありける。ものの上手にて下襲(がさね)・上の衣(きぬ)など、人よりはきよげにてありける。これを「異(こと)人に」としけり。 里人、宿直物取りに遣る。「男(おのこ)二人まかれ」と言へば、「一人して、取りてまかりなん」と言へば、「あやしの男や。一人して二人が物をば持つべきぞ。一升瓶(ひとますがめ)に二升は入るや」と言ふ。何は知らねども、いみじう人笑ひたり。 人の使の、「うせ((「歌」か))、とくとく」と言へば、「など、かうはまどふか。まことに豆やくべたる。この殿上のすみにては、物の盗み隠したるぞ。飯、酒ならばこそ、人の欲しうせめ」といへば、また、笑ふこと限りなし。 ===== 翻刻 ===== 今は昔一条院の御時まさひろとていみしく人にわらは/13オ るる蔵人有けりおやなとも有ける物の上手にて下 かさね上のきぬなと人よりはきよけにてありけるこれ をこと人にとしけり里人宿直物とりにやるおのこ二 人まかれといへはひとりしてとりてまかりなんとい へはあやしのおのこやひとりしてふたりか物をはもつへき そひとますかめに二ますはいるやといふなにはしらねとも いみしう人わらひけり人の使のうせとくとくといへはなと かうはまとふかまことにまめやくへたる此殿上のす みにては物のぬすみかくしたるそ飯酒ならはこそ人 のほしうせめといへは又笑事かきりなし/13ウ