宇治拾遺物語 ====== 第152話(巻12・第16話)八歳の童、孔子問答の事 ====== **八歳童孔子問答事** **八歳の童、孔子問答の事** ===== 校訂本文 ===== 今は昔、唐土(もろこし)に、孔子、道を行き給ふに、八つばかりなる童会ひぬ。孔子に問ひ申すやう、「日の入る所と洛陽と、いづれが遠き」と。孔子、いらへ給ふやう、「日の入る所は遠し、洛陽は近し」。童の申すやう、「日の出で入る所は見ゆ。洛陽はまだ見ず。されば、日の出づる所は近し、洛陽は遠しと思ふ」と申しければ、孔子、「かしこき童なり」と感じ給ひける。 「孔子には、かく物問ひかくる人もなきに、かく問ひけるは、ただ者にはあらぬなりけり」とぞ人言ひける。 ===== 翻刻 ===== 今はむかしもろこしに孔子道を行給に八はかりなる童あひぬ 孔子に問申やう日の入所と洛陽といつれかとをきと孔子いらへ 給やう日の入所は遠し洛陽はちかし童の申やう日の出入所はみ ゆらくやうはまたみすされは日のいつる所はちかし洛陽は遠しと おもふと申けれは孔子かしこき童なりと感し給ける孔子にはかく物 とひかくる人もなきにかくとひけるはたた物にはあらぬなりけりとそ人いひける/下59ウy372