宇治拾遺物語 宇治拾遺物語 ====== 第146話(巻12・第10話)季直少将の歌の事 ====== **季直少将哥事** **季直少将の歌の事** ===== 校訂本文 ===== 今は昔、季直少将((藤原季縄。[[:text:yamato:u_yamato101|『大和物語』101段]]参照。))といふ人ありけり。病つきて後、すこしおこたりて、内に参りたりけり。公忠弁((源公忠))の、掃部助(かもんのすけ)にて、蔵人なりけるころのことなり。「乱り心地、まだよくもおこたり侍らねども、こころもとなくて参り侍りつる。後は知らねども、かくまで侍れば、あさてばかりにまた侍らん。よきに申させ給へ」とて、まかり出でぬ。 三日ばかりありて、少将のもとより くやしくぞ後に会はんと契りける今日を限りと言はましものを さて、その日失せにけり。あはれなることのさまなり。 ===== 翻刻 ===== 今はむかし季直少将といふ人有けり病つきて後すこしをこた りて内にまいりたりけり公忠弁の掃部助にて蔵人なりける比の 事也みたり心ちまたよくもをこたり侍らねとも心元くて参り 侍つる後はしらねともかくまて侍れはあさて斗に又侍らんよきに/下57オy367 申させ給へとてまかり出ぬ三日はかりありて少将のもとより くやしくそ後にあはんと契けるけふをかきりといはまし物を さてその日うせにけりあはれなる事のさまなり/下57ウy368