宇治拾遺物語 ====== 第98話(巻7・第7話)式成・満・則員等三人、滝口の弓芸に召さるる事 ====== **式成満則員等三人被召滝口弓藝事** **式成・満・則員等三人、滝口の弓芸に召さるる事** ===== 校訂本文 ===== これも今は昔、鳥羽院((鳥羽天皇))、位の御時、白河院の武者所の中に、「宮道式成・源満・則員、ことに的弓(まとゆみ)の上手なり」とその時聞こえありて、鳥羽院、位の御時の滝口に、三人ながら召されぬ。試みあるに、おほかた一度も外さず、これをもてなし興ぜさせ給ふ。 ある時、三尺五寸の的を賜びて、「これが第二の黒み、射落して持て参れ」と仰せあり。巳時に給はりて、未時に射落して参れり。板付(いたつき)、三人の中に三手なり。 「矢取りて、矢取(やとり)の帰らんを待たば、ほど経ぬべし」とて、残りの輩(ともがら)、われと矢を走り立ちて、取り取りして、立ち代り立ち代り射るほどに、未の時の半らばかりに、第二の黒みを射めぐらして、射落して、持て参れりけり。 「これすでに養由がごとし」と、時の人、讃めののしりけるとかや。 ===== 翻刻 ===== これも今はむかし鳥羽院位の御時白河院の武者所の中に 宮道式成源満則員ことに的弓の上手なりとそのとき きこえありて鳥羽院位の御時の滝口に三人なからめされぬ こころみあるに大かた一度もはつさすこれをもてなし興せさせ 給或時三尺五寸の的をたひてこれか第二のくろみ射おと して持てまいれと仰あり巳時に給はりて未時に射おとし てまいれりいたつき三人の中に三手なり矢とりて矢 取の帰らんをまたは程へぬへしとて残の輩我と矢を走 たちてとりとりして立かはり立かはりいる程に未のときのなからは かりに第二のくろみを射めくらしていおとして持てまいれり/111ウy226 けりこれすてにやうゆうかことしと時の人ほめののしり けるとかや/112オy227