宇治拾遺物語 ====== 第66話(巻4・第14話)白川院御寝の時、物に襲はれさせ給ふ事 ====== **白川院御寝時物ニヲソワレサセ給事** **白川院御寝の時、物に襲はれさせ給ふ事** ===== 校訂本文 ===== これも今は昔、白河院((白河上皇))、御とのごもりて後(のち)、物に襲はれさせ給ひける。 「しかるべき武具を御枕の上に置くべし」と沙汰ありて、義家朝臣((源義家))に召されければ、檀(まゆみ)の黒塗りなるを、一張、参らせたりけるを、御枕に立てられて後、襲はれさせおはしまさざりければ、御感ありて、「この弓は十二年の合戦((前九年の役))の時や持ちたりし」と御尋ねありければ、覚えざるよし、申されけり。 上皇、しきりに御感ありけるとか。 ===== 翻刻 ===== これも今はむかし白河院御とのこもりてのち物におそはれ させ給けるしかるへき武具を御枕のうへにをくへしとさた ありて義家朝臣にめされけれはまゆみのくろぬりなるを 一張まいらせたりけるを御枕にたてられてのちおそはれさせ おはしまささりけれは御感ありてこの弓は十二年の合戦の 時や持たりしと御尋ありけれはおほえさるよし申されけり 上皇しきりに御感ありけるとか/72オy147