宇治拾遺物語 ====== 第42話(巻3・第10話)同人、仏事の事 ====== **同人仏事事** **同人、仏事の事** ===== 校訂本文 ===== 今は昔、伯の母((神祇伯康資王の母))、仏供養しけり。永縁(やうえん)((底本、「やうえん」に「永縁歟」と傍書。傍書に従う。))僧正を請じて、さまざまの物どもを奉る中に、紫の薄様に包みたる物ありけり。開けて見れば、   朽ちにける長柄(ながら)の橋の橋柱(はしばしら)法(のり)のためにも渡しつるかな 長柄の橋の切れなりけり。 またの日、まだつとめて、若狭阿闍梨こくゑん(([[text:kohon:kohon021|『古本説話集』21]]によると、隆源。))といふ人、歌詠みなる人が来たり。「あはれ、このことを聞きたるよ」と僧正思すに、懐(ふところ)より名簿(みやうぶ)を引き出でて、奉る。 「この橋の切れ、賜はらん」と申す。僧正、「かばかりの希重の物は、いかでか」とて、「何しにか、取らせ給はん。口惜し」とて、帰りにけり。 すきずきしく、あはれなることどもなり。 ===== 翻刻 ===== いまはむかし伯のはは仏くやうしけりやうえん(永縁歟)僧正をしやうしてさまさま の物ともをたてまつる中にむらさきのうすやうにつつみたる物ありけりあけ てみれは 朽にけるなからの橋のはしはしら法のためにもわたしつるかな なからのはしのきれなりけり又の日またつとめて若狭あさりこくゑん といふ人哥よみなるひとかきたりあはれこのことをききたるよと僧正おほすに ふところよりみやうふをひきいててたてまつるこの橋のきれ給はらんと申/49オy101 僧正かはかりの希重の物はいかてかとてなにしにかとらせ給はんくち おしとて帰にけりすきすきしくあはれなる事ともなり/49ウy102