宇治拾遺物語 ====== 第9話(巻1・第9話)宇治殿倒れさせ給ひて、実相房僧正、験者に召さるる事 ====== **宇治殿倒レサセ給テ実相房僧正験者ニ被召事** **宇治殿倒れさせ給ひて、実相房僧正、験者に召さるる事** ===== 校訂本文 ===== これも今は昔、高陽院(かやのゐん)造らるる間、宇治殿((藤原頼通))、御騎馬にて渡らせ給ふ間、倒(たう)れさせ給ひて、心地たがはせ給ふ。 心誉僧正((実相房と号す。))に祈られんとて、召しつかはすほどに、いまだ参らざるさきに、女房の局なる小女に、物つきて、申していはく、「別のことにあらず。きと、目見入れ奉るによりて、かくおはしますなり。僧正、参られざる先に、護法、先立ちて参りて、追ひ払ひさぶらへば、逃げをはりぬ」とこそ申しけれ。すなはち、良くならせ給ひにけり。 心誉僧正、いみじかりけるとか。 ===== 翻刻 ===== これもいまはむかし高陽院造らるる間宇治殿御騎馬にて わたらせ給あひたたうれさせ給て心ちたかはせたまふ心誉僧正 に祈られんとてめしつかはすほとにいまたまいらさるさきに女房 の局なる小女に物つきて申ていはく別のことにあらすきと目 見いれたてまつるによりてかくおはしますなり僧正まいられ さる先に護法さきたちてまいりてをいはらひさふらへは逃をはり/13ウy30 ぬとこそ申けれ則よくならせ給にけり心誉僧正いみしかりけるとか/14オy31