大和物語 ====== 第145段 亭子の御門河尻におはしましにけり遊女に白といふ者ありけり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 亭子の御門((宇多天皇))、河尻におはしましにけり。遊女(うかれめ)に白(しろ)といふ者ありけり。 召しにつかはしたりければ、参りてさぶらふに、上達部・殿上人・皇子(みこ)たち、あまたさぶらひ給ひければ、下(しも)に遠くさぶらふに、「かう遥かにさぶらふよし、歌つかうまつれ」と仰せられければ、すなはち詠みて奉りける。   浜千鳥飛び行くかぎりありければ雲立つ山をあととこそ見れ と詠みたりければ、いとかしこくめで給ひて、かづけものなと賜ふ。   命だに心にかなふものならば何か別れの悲しからまし といふ歌も、この白が詠みたりける歌なり。 ===== 翻刻 ===== ていしのみかと河尻におはしましにけり うかれめにしろといふものありけりめし につかはしたりけれはまいりてさふらふに かんたちめてんしやう人みこたちあ またさふらひたまひけれはしもにとをく さふらふにかうはるかにさふらふよし哥/d32l つかうまつれとおほせられけれはすなはち よみてたてまつりける はまちとりとひゆくかきりありけれは 雲たつやまをあととこそみれ とよみたりけれはいとかしこくめてたまひ てかつけものなとたまふ いのちたにこころにかなふものならは なにかわかれのかなしからまし といふうたもこのしろかよみたりけるうたなり/d33r