大和物語 ====== 第140段 故兵部卿宮昇の大納言のむすめに住み給ひけるを・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 故兵部卿宮((陽成天皇皇子元良親王))、昇の大納言((源昇))のむすめに住み給ひけるを、例のおまし所にはあらで、廂(ひさし)におまし敷きて、大殿籠りなどして、帰り給ひて、ほど久しうおはしまさざりけり。 かくてのたまへりける、「かの廂に敷かれたりしものは、さながらありや。取りたてやし給ひてし」とのたまへりければ、御返事に、   敷きかへずありし((底本「あはし」。諸本「ありし」に従う。))ながらに草枕塵(ちり)のみぞゐる払ふ人なみ とありければ、御返しに、   草枕塵払ひに唐衣(はからころも)袂(たもと)ゆたかにたつを待てかし とありければ、また、   唐衣たつを待つ間のほどこそはわがしきたへの塵も積らめ となんありければ、おはしまして、また「宇治へ狩りしになん行く」とのたまひける御返しに、   み狩(かり)する栗駒山の鹿よりも一人寝(ぬ)る夜ぞわびしかりける ===== 翻刻 ===== 故兵部卿宮のほるの大納言のむす めにすみ給ひけるをれいのお まし所にはあらてひさしにお まししきておほとのこもりなとし てかへり給てほとひさしうおはし まささりけりかくての給へり けるかのひさしにしか れたりしものはさなからあり やとりたてやし給てしとのた まへりけれは御返事に しきかへすあはしなからに草まくら/d25l ちりのみそゐるはらふ人なみ とありけれは御返に 草まくらちりはらひにはからころも たもとゆたかにたつをまてかし とありけれは又 からころもたつをまつまのほとこそは わかしきたへの塵もつもらめ となんありけれはおはしまして又宇治へ かりしになんいくとの給ける御返に(女イ) みかりするくりこまやまのしかよりも ひとりぬる夜そわひしかりける/d26r