大和物語 ====== 第133段 同じ御門月のおもしろき夜みそかに御息所たちの御曹司ども・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 同じ御門((醍醐天皇。[[u_yamato131|131段]]・[[u_yamato132|132段]]参照))、月のおもしろき夜、みそかに御息所(みやすどころ)たちの御曹司(ざうし)ども見歩(あり)かせ給ひけり。御供に公忠(きんただ)((源公忠))さぶらひけり。 それに、ある御曹司より、濃き袿(うちぎ)一襲(かさね)着たる女の、いときよげなる、出で来て、いみしく泣きけり。公忠を近く召して、見せ給ひければ、髪を振りおほひて、いみじく泣く。「などて、かく泣くぞ」と言へど、いらへもせず。御門もいみじくあやしがり給ひけり。 公忠、   思ふらん心の内は知らねども泣くを見るこそ悲しかりけれ と詠めりければ、いとになくめで給ひけり。 ===== 翻刻 ===== おなしみかと月のおもしろき夜 みそかにみやす所たちの御さうし ともみありかせたまひけり御 ともにきむたたさふらひけりそれに ある御さうしよりこきうちき一 かさねきたる女のいときよけなる/d21r いてきていみしくなきけりきん たたをちかくめしてみせたまひ けれはかみをふりおほひていみし くなくなとてかくなくそといへと いらへもせす御かともいみしくあや しかり給けり公忠 おもふらんこころのうちはしらね ともなくをみるこそかなしかりけれ とよめりけれはいとになくめて給けり/d21l