大和物語 ====== 第113段 兵衛佐離れて臨時の祭の舞人にさされて行きけり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 兵衛佐((藤原師尹。[[u_yamato112|112段]]参照))離れて、臨時の祭の舞人にさされて行きけり。この女ども((橘公平の娘たち。[[u_yamato111|111段]]参照))、物見に出でたりけり。 さて、帰りて、詠みてやりける。   昔きてなれしをすれる衣手をあなめづらしとよそに見しかな かくて、兵衛佐、山吹につけて、おこせたりける。   もろともに井出の里こそ恋ひしけれ一人をりうき山吹の花 となん。返しは知らず。 かくて、これは女、通ひけるとき、   大空もただならぬかな神無月われのみ下に時雨(しぐ)ると思へば これも同じ人、   逢ふことのなみの下草水(み)隠れてしづ心なくねこそなかるれ ===== 翻刻 ===== とよみたりけりひやうゑのすけは なれて臨時のまつりの舞人にさされて いきけりこの女ともものみにいてたり けりさてかへりてよみてやりける むかしきてなれしをすれるころも/d11l てをあなめつらしとよそにみしかな かくて兵衛佐やまふきにつけて をこせたりける もろともにゐてのさとこそこひし けれひとりおりうきやまふきの花 となんかへしはしらす かくてこれはをんなかよひけるとき おほそらもたたならぬかな神な 月われのみしたにしくるとおもへは これもおなしひと あふことのなみのしたくさみかくれて/d12r しつこころなくねこそなかるれ/d12l