大和物語 ====== 第111段 大膳の大夫公平のむすめども県の井戸といふところに住みけり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 大膳の大夫(かみ)公平(きんひら)((橘公平))のむすめども、県(あがた)の井戸といふところに住みけり。おほいこは后宮(きさいのみや)に、「少将の御」といひてさぶらひけり。 三に当りけるは、備後の守信明(さねあきら)((源信明))が、まだ若男(わかおとこ)なりける時になん、初めの男にしたりける。住まざりければ、詠みてやりける。   この世にはかくてもやみぬ別れ路の淵瀬を誰に問ひて渡らん となんありける。 ===== 翻刻 ===== 大膳のかみきんひらのむすめともあかたの/d10l いとといふところにすみけりおほいこはき さい宮に少将の御といひてさふらひけり 三にあたりけるは備後のかみさね(公忠卿子)あ きらかまたわかおとこなりけるとき になんはしめのおとこにしたりける すまさりけれはよみてやりける このよにはかくてもやみぬわかれちのふ ちせをたれにとひてわたらん となんありける/d11r