大和物語 ====== 第92段 故権中納言左の大臣の君をよばひ給ひける年の師走のつごもりに・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 故権中納言((藤原敦忠))、左の大臣(おとど)((藤原仲平))の君((仲平の娘。貴子説・明子説がある))をよばひ給ひける年の、師走のつごもりに、   もの思ふと月日のゆくも知らぬまに今年は今日に果てぬとか聞く となんありける。 また、かくなん。   いかにしてかく思ふてふことをだに人づてならで君に語らん かく言ひ言ひて、つひに逢ひにけるあしたに、   今日そへに暮れざらめやと思へども耐えぬは人の心なりけり ===== 翻刻 ===== 故権中納言左のおととのきみをよはひ たまひけるとしのしはすのつこもりに ものおもふと月日のゆくもしらぬ まにことしはけふにはてぬとかきく となんありける又かくなん いかにしてかくおもふてふことを/d45l たにひとつてならてきみにかたらん かくいひいひてつゐにあひにけるあし たに けふそへにくれさらめやとおもへとも たえぬはひとのこころなりけり/d46r