大和物語 ====== 第76段 桂の御女の御もとに嘉種が来たりけるを母御息所聞きつけ給ひて・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 桂の皇女((宇多天皇皇女孚子内親王))の御もとに、嘉種((源嘉種))が来たりけるを、母御息所聞きつけ給ひて、門(かど)をささせ給ひければ、夜一人立ちわづらひて、「帰る」とて、「かく聞こえ給へ」とて、門のはざまより言ひ入れける。   今宵こそなみだの川に入る千鳥なきて帰ると君は知らずや ===== 翻刻 ===== 孚子内親王母仲野親王歟天徳二年四月薨桂宮 かつらの御この御もとによしたねかき たりけるをははみやす所ききつけ たまひてかとをささせ給けれはよるひ とりたちわつらひてかへるとてか くきこえ給へとてかとのはさまより いひいれける/d38r 源嘉種正正五位下美作介従三位刑部卿清和姓氏長猷男 こよひこそなみたのかはにいるちとり なきてかへるときみはしらすや/d38l