大和物語 ====== 第5段 前坊の君失せ給ひにければ・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 前坊の君((先の皇太子の意。醍醐帝皇子保明親王を指す。))、失せ給ひにければ、大輔、かぎりなく悲しくのみ思ゆるに、后(きさい)の宮((藤原穏子))、后(きさき)に立ち給ふ日になりにければ、「ゆゆし」とて、隠しけり。これは((底本、「これは」に、「さりけれイ」と傍書。))、読みて出だしける。   わびぬれば今はたものを思へども心に似ぬは涙なりけり ===== 翻刻 ===== 前坊のきみうせたまひにけれは大輔かき りなくかなしくのみおほゆるにきさいの みやきさきにたちたまふひになりに けれはゆゆしとてかくしけり(さりけれイ)これはよみ ていたしける わひぬれはいまはたものををもへとも こころににぬはなみたなりけり/d8r