徒然草 ====== 第190段 妻といふものこそ男の持つまじきものなれ・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 妻(め)といふものこそ、男(をのこ)の持つまじきものなれ。「いつも独り住みにて」など聞くこそ、心にくけれ。 「誰がしが婿になりぬ」とも、また、「いかなる女を取り据ゑて、相住む」など聞きつれば、無下に心劣りせらるるわざなり。「ことなることなき女を、よしと思ひ定めてこそ添ひ居たらめ」と、いやしくも推し量られ、よき女ならば、「この男をぞらうたくして、あが仏とまもり居たらめ」、たとへば、「さばかりにこそ」と思えぬべし。 まして、家のうちを行ひ治めたる女、いと口惜し。子など出で来て、かしづき愛したる、心憂し。男亡くなりて後、尼になりて年寄りたるありさま、亡き跡まであさまし。 いかなる女なりとも、明け暮れ添ひ見んには、いと心づきなく、憎かりなん。女のためも、半空(なかぞら)にこそならめ、よそながら時々通ひ住まんこそ、年月経ても、絶えぬながらひともならめ。あからさまに来て、泊り居などせんは、めづらしかりぬべし。 ===== 翻刻 ===== 妻といふ物こそ。をのこの持まじき物 なれ。いつも独ずみにてなど聞こそ。 心にくけれ。誰がしが婿に成ぬとも。 又如何なる女を取すへて。相住など聞つれば。 无下に心をとりせらるるわざ也。ことなる事 なき女をよしとおもひさだめてこそそひ/k2-43r ゐたらめと。賤くもをしはかられ。よき 女ならば。此男をぞらうたくして。あか 仏とまもりゐたらめ。たとへばさばかりにこそ と覚えぬべし。まして。家のうちを をこなひおさめたる女。いと口おし。子など いできて。かしづき愛したる心うし。 男なくなりて後。尼になりて年より たるありさま。なき跡まで浅まし。いか なる女成とも明暮そひ見んには。いと心づ きなくにくかりなん。女のためも半空/k2-43l http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/he10/he10_00934/he10_00934_0002/he10_00934_0002_p0043.jpg にこそならめ。よそながらときどき通ひ すまんこそ。年月へてもたえぬながらひ ともならめ。あからさまにきてとまり ゐなどせんは。めづらしかりぬべし/k2-44r http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/he10/he10_00934/he10_00934_0002/he10_00934_0002_p0044.jpg