徒然草 ====== 第144段 栂尾の上人道を過ぎ給ひけるに・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 栂尾(とがのを)の上人((明恵))、道を過ぎ給ひけるに、河にて馬洗ふおのこ、「あしあし」と言ひてければ、上人、立ち止まりて、「あな尊(たふと)や。宿執開発(しゆくしふかいほつ)の人かな。阿字阿字(あじあじ)と唱ふるぞや。いかなる人の御馬ぞ。あまりに尊く思ゆるは」と尋ね給ひければ、「府生殿(ふしやうどの)の御馬に候ふ」と答へけり。 「こは、めでたきことかな。阿字本不生にこそあなれ。嬉しき結縁(けちえん)をもしつるかな」とて、感涙をのごはれけるとぞ。 ===== 翻刻 ===== 栂尾の上人道を過給けるに。河にて馬 あらふをのこ。あしあしといひてければ。/w2-13l http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/he10/he10_00934/he10_00934_0002/he10_00934_0002_p0013.jpg 上人立とまりて。あなたうとや。宿執開 発の人哉。阿字阿字と唱るぞや。如何なる 人の御馬ぞ。あまりにたうとく覚ゆるはと 尋給ければ。府生殿の御馬に候と答 けり。こはめでたき事かな。阿字本不生に こそあなれ。うれしき結縁をもし つるかなとて。感涙をのごはれけるとぞ/w2-14r http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/he10/he10_00934/he10_00934_0002/he10_00934_0002_p0014.jpg