徒然草 ====== 第123段 無益のことをなして時を移すを愚かなる人とも僻事する人とも言ふべし・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 無益のことをなして時を移すを、愚かなる人とも、僻事(ひがごと)する人とも言ふべし。国のため、君のために、止(や)むことを得ずして、なすべきこと多し。その余りの暇(いとま)、いくばくならず。 思ふべし、人の身に止むことを得ずして営む所、第一に食ふ物、第二に着る物、第三に居る所なり。人間の大事、この三つには過ぎず。飢ゑず、寒からず、風雨に侵されずして、閑(しづ)かに過ぐすを楽とす。ただし、人、みな病あり。病に冒されぬれば、その愁へ忍びがたし。医療を忘るべからず。 薬を加へて、四つのこと求め得ざるを貧しとす。この四つ、欠けざるを富めりとす。この四つのほかを求め営むを驕(おご)りとす。四つのこと倹約ならば、誰(たれ)の人か足らずとせん。 ===== 翻刻 ===== 無益のことをなして。時を移すを。/w1-89r をろかなる人とも。僻事する人とも云 べし。国のため君のために。止ことを得 ずしてなすべき事おほし。其あまり の暇幾ならず。思ふべし人の身に。止こ とをえずしていとなむ所。第一に食物。 第二にきる物。第三に居る所也。人間の大 事此三にはすぎず。饑ず。寒からず。 風雨にをかされずして。閑に過すを楽 とす。ただし人皆病あり。病にをかされぬ れば其愁忍がたし。医療をわするべ/w1-89l http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/he10/he10_00934/he10_00934_0001/he10_00934_0001_p0089.jpg からず。薬を加へて。四の事求得ざるを まづしとす。此四かけざるをとめりとす。 此四の外をもとめいとなむを驕とす。四の 事倹約ならば。誰の人かたらずとせん/w1-90r http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/he10/he10_00934/he10_00934_0001/he10_00934_0001_p0090.jpg