徒然草 ====== 第105段 北の屋かげに消え残りたる雪のいたう凍りたるに・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 北の屋かげに消え残りたる雪の、いたう凍りたるに、さし寄せたる車の轅(ながえ)も、霜いたくきらめきて、有明の月さやかなれども、くまなくはあらぬに、人離れなる御堂の廊(らう)に、なみなみにはあらずと見ゆる男、女と長押(なげし)に尻かけて、物語するさまこそ、何事にかあらん、尽きすまじけれ。 かぶし・形など、いとよしと見えて、えもいはぬ匂ひの、さと香りたるこそをかしけれ。けはひなど、はつれはつれ聞こえたるもゆかし。 ===== 翻刻 ===== 北の屋かげに消残たる雪の。いたうこ ほりたるに。さしよせたる車のながえ も。霜いたくきらめきて。有明の月さや かなれども。くまなくはあらぬに。人ばな/w1-76r れなる御堂の廊に。なみなみにはあらず とみゆる。男女と。なげしにしりかけて。 物がたりするさまこそ。何事にかあらん。つ きすまじけれ。かぶしかたちなど。 いとよしと見えて。えもいはぬにほひの。さ とかほりたるこそおかしけれ。けはひなど。 はづれはづれきこえたるもゆかし/w1-76l http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/he10/he10_00934/he10_00934_0001/he10_00934_0001_p0076.jpg