徒然草 ====== 第29段 静かに思へばよろづに過ぎにしかたの恋しさのみぞせんかたなき・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 静かに思へば、よろづに過ぎにしかたの恋しさのみぞ、せんかたなき。 人しづまりて後、長き夜のすさびに、何となき具足とりしたため、「残し置かじ」と思ふ反古など、破り捨つる中に、亡き人の手習ひ、絵描きすさびたる、見出でたるこそ、ただその折の心地すれ。 このごろある人の文だに、久しくなりて、「いかなる折、いつの年なりけん」と思ふは、あはれなるぞかし。手なれし具足なども、心もなくて、変らず久しき。いとかなし。 ===== 翻刻 ===== しづかに思へば。よろづに過にしかたの 恋しさのみぞせんかたなき。人しづまり て後。ながき夜のすさひに。なにとなき 具足とりしたため。残しをかじと 思ふ反古などやりすつる中に。なき人/w1-24r の手ならひ絵かきすさひたる見出 たるこそ。ただ其折のここちすれ。此比 ある人の文だに。久しく成て。いかなる おり。いつの年也けんとおもふは。哀なる ぞかし。手なれし具足なども。心もな くてかはらず久しき。いとかなし。/w1-24l http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/he10/he10_00934/he10_00934_0001/he10_00934_0001_p0024.jpg