徒然草 ====== 第18段 人はおのれをつづまやかにし奢りを退けて・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 人は、おのれをつづまやかにし、奢(おご)りを退けて、財(たから)を持たず、世をむさぼらざらんぞ、いみじかるべき。昔より、賢き人の富めるはまれなり。 唐土(もろこし)に許由といひつる人は、さらに身にしたがへる貯へもなくて、水をも手してささげて飲みけるを見て、なり瓢(ひさこ)といふ物を、人の得させたりければ、ある時、木の枝にかけたりけるが、風に吹かれて鳴りけるを、「かしかまし」とて捨てつ。また、手にむすびてぞ、水も飲みける。いかばかり、心のうち、凉しかりけん(([[:text:mogyuwaka:ndl_mogyuwaka08-03|『蒙求和歌』8-3「許由一瓢」]]参照。))。 孫晨は、冬月に衾(ふすま)なくて、藁一束ありけるを、夕べにはこれに臥し、朝には納めけり(([[:text:mogyuwaka:ndl_mogyuwaka10-07|『蒙求和歌』8-3「孫晨藁席」]]参照。))。 唐土の人は、これをいみじと思へばこそ、記し留めて、世にも伝へけめ。これらの人は、語りも伝ふべからず。 ===== 翻刻 ===== 人はをのれをつづまやかにし。おごりを 退けて。財をもたず世をむさぼらざらん ぞいみじかるべき。むかしよりかしこき 人のとめるはまれ也。唐土に許由といひ つる人はさらに身にしたがへるたくはへも なくて。水をも手してささげて飲 けるを見て。なりひさこといふ物を人の えさせたりければ。有時木の枝にかけ/w1-14l http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/he10/he10_00934/he10_00934_0001/he10_00934_0001_p0014.jpg たりけるが風にふかれてなりけるを。 かしかましとてすてつ。また手に むすびてぞ水ものみける。いかばかり心の うち凉しかりけん。孫晨は冬月に衾 なくて。藁一束ありけるを夕には是 にふし。朝にはおさめけり。もろこしの 人は。これをいみじとおもへばこそ。しる しとどめて世にもつたへけめ。これら の人は。かたりもつたふべからず/w1-15r http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/he10/he10_00934/he10_00934_0001/he10_00934_0001_p0015.jpg