とはずがたり ====== 巻5 26 十六日には御仏事とて・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[towazu5-25|<>]] 十六日には、御仏事とて、法華の讃嘆(さんだん)とかやとて、釈迦・多宝二仏、一つ蓮台におはします。御堂いしいし御供養あり。 かねてより、院((後宇多院))、御幸もならせおはしまして、ことに厳しく、庭も上も雑人(ざふにん)払はれしかば、「墨染の袂は、ことに忌む((「忌む」は底本「いや」。「や」を「也」と読み「む」の脱字とし「忌むなり」とする説や、「嫌(きらふ)」を「いや」と誤読して書写されたとする説もある。))」といさめらるるも悲しけれど、とかくうかがひて、雨垂りの石の辺にて聴聞するにも、「昔ながらの身なからましかば」と、厭ひ捨てしいにしへさへ恋しきに、御願文終るより、懺法(せんぽふ)すでに終るまで、すべて涙はえとどめ侍らざりしかば、そばにことよろしき僧の侍りしが、「いかなる人にて、かくまて歎き給ふぞ」と申ししも、亡き御影の跡までも、はばかりある心地して、「親にて侍りし者におくれて、このほど忌み明きて侍るほどに、ことにあはれに思ひ参らせて」など申しなして、立ち退き侍りぬ。 [[towazu5-25|<>]] ===== 翻刻 ===== 十六日には御仏事とて法花のさむたんとかやとて しやかたほう二仏ひとつ蓮台におはします御たう/s238r k5-60 いしいし御供養ありかねてより院御幸もならせおはしまし てことにきひしく庭もうへも雑人はらはれしかは墨染の たもとはことにいやといさめらるるもかなしけれととかくうか かひてあまたりの石のへんにてちやうもんするにもむかし なからの身なからましかはといとひすてしいにしへさへ恋し きに御願文をはるよりせんほうすてにをはるまてすへ て涙はえととめ侍らさりしかはそはにことよろしき僧 の侍しかいかなる人にてかくまてなけき給そと申しも なき御かけの跡まてもははかりある心ちしておやにて侍し ものにをくれてこの程いみあきて侍ほとにことにあはれ におもひまいらせてなと申なしてたちのき侍ぬ御幸の/s238l k5-61 http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100218515/viewer/238 [[towazu5-25|<>]]