とはずがたり ====== 巻3 9 これ逃れぬ契りとかやならんなど思ひ続けさながらうち臥したるに御使あり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[towazu3-08|<>]] 「これ、逃れぬ契りとかやならん」など思ひ続け、さながらうち臥したるに、御使あり。「今宵待つ心地して、むなしき床に臥し明かしつる」とて、いまだ夜の御座(おまし)におはしますなりけり。「ただ今しも、明かぬ名残も、後朝(きぬぎぬ)の空は心なく」など仰せ((「仰せ」は底本「いるせ」。))あるも、何と申すべき言の葉なきにつけても、「しからぬ人のみこそ世には多きに、いかなれば」など思ふに、涙のこぼれぬるを、いかなる方に思し召しなすにか、心づきなく、「『また寝の夢をだに、心やすくも』など思ふにや」など、あらぬ筋に思し召したりげにて、常よりも、よにわづらはしげなることどもを承るにぞ、「さればよ、思ひつることなり、つひにはかばかしかるまじき身の行く末を」など、いとど涙のこぼるるに添へては、「ただ一筋に御名残を慕ひつつ、わが御使を心づきなく思ひたる」と言ふ御腹にて、起き給ひぬるもむつかしければ、局へすべりぬ。 [[towazu3-08|<>]] ===== 翻刻 ===== なとおほえしは我もかよふ心のいてきけるにやこれのかれぬ ちきりとかやならんなとおもひつつけさなからうちふしたるに 御つかひありこよひまつ心地してむなしきとこにふし あかしつるとていまた夜のおましにをはしますなりけり たたいましもあかぬなこりもきぬきぬの空は心なくなといるせ あるも何と申へきことの葉なきにつけてもしからぬ人のみ こそ世にはおほきにいかなれはなとおもふになみたの こほれぬるをいかなるかたにおほしめしなすにか心つき/s124l k3-23 http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100218515/viewer/124 なくまたねの夢をたに心やすくもなとおもふにやなとあらぬ すちにおほしめしたりけにてつねよりもよにわつらはしけ なることともをうけたまはるにそされはよおもひつる事 なりつゐにはかはかしかるましき身の行末をなといととな みたのこほるるにそへてはたた一すちに御なこりをしたひ つつ我御つかひを心つきなくおもひたるといふ御はらにて をき給ぬるもむつかしけれはつほねへすへりぬ心地さへ/s125r k3-24 http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100218515/viewer/125 [[towazu3-08|<>]]