とはずがたり ====== 巻2 30 さても夢の面影の人わづらひなほ所せしとて・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[towazu2-29|<>]] さても、夢の面影の人((作者が生んだ雪の曙の子。))、わづらひ((「わづらひ」は底本「につらひ」。))なほ所せしとて、思ひがけぬ人の宿所(しゆくしよ)へ呼びて見せらる。 「五月五日は、たらちめの跡弔(と)ひにまかるべきついでに」と申ししを、「五月は憚る上、苔の跡弔はむたよりもいまいまし」と、しひて言はれしかば、卯月の晦日(つごもり)の日、しるべある所へまかりたりしかば、紅梅の浮織物の小袖にや、二月より生ふされけるとて、いこいことある髪姿、夜目に変はらずあはれなり。北の方((雪の曙(西園寺実兼)の正妻、源顕子。))、折節産(さん)したりけるが、亡くなりにかる代りに、取り出でてあれば、人はみな、ただたそれとのみ思ひてぞありける。天子に心をかけ、禁中に交じらはせんことを思ひ、かしづくよし聞くも、「人の宝の玉なれば」と思ふぞ、心悪(わろ)き。 かやうの二心(ふたこころ)ありとも、つゆ知らせおはしまさねば、心より外(ほか)にはと思し召すぞ、いと恐ろしき。 [[towazu2-29|<>]] ===== 翻刻 ===== かすかすおほかりさても夢のおも影の人につらひなを/s100l k2-71 http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100218515/viewer/100 所せしとておもひかけぬ人のしゆく所へよひてみせらる 五月五日はたらちめの跡とひにまかるへきついてにと 申しを五月はははかるうへこけの跡とはむたよりもいま いましとしひていはれしかはう月のつこもりの日しるへ ある所へまかりたりしかはこうはいのうきをり物の小袖にや 二月よりおふされけるとていこいことあるかみすかたよめに かはらすあはれなり北方おりふしさんしたりけるかなく成に かるかはりにとり出てあれは人はみなたたそれとのみおもひ てそ有けるてんしに心をかけきん中にましらはせんこと をおもひかしつくよしきくも人のたからのたまなれは とおもふそこころわろきかやうのふたこころありとも/s101r k2-72 つゆしらせおはしまさねは心より外にはとおほしめすそいと おそろしき八月のころにや近衛大殿御まいりあり後さか/s101l k2-73 http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100218515/viewer/101 [[towazu2-29|<>]]