[[index.html|醒睡笑]] 巻8 祝ひすました ====== 7 若狭の太守武田殿無縁の出家をかかへ置かれ寺など建て憐愍あさからず・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[n_sesuisho8-159|<>]] 若狭の太守武田殿、無縁の出家をかかへ置かれ、寺など建て、憐愍あさからず。されども、その家のことを知る人、正路(しやうろ)ならず。何を送らるるも、あるいは半分、あるいは三分の一つかはし、中(ちう)にて残す。 かの会下僧(ゑげそう)もよく知りながら、さすが国主へ申し上ぐべよしも((「よしも」は底本「よしに」。諸本により訂正。))なかりしに、ある歳の暮、「正月の菓子に胡桃を千送れ」とあり。しかるを五百八十やりたり。僧、不審に思ひ、一首の狂歌を参らする。   下さるるくるみの数も君が代もめでたかりけり五百八十 太守、代官を召し出だし((「召し出だし」は底本「はし出し」。諸本により訂正。))、詳しく詮索あれば、あやまるところ紛(まぎ)れなかりつれども、「これは祝儀の歌を詠まれし((「詠まれし」は底本「ままれし」。諸本により訂正。))僧の心を感ずる条(でう)、今度の科(とが)ばかりは免す」とありし。 [[n_sesuisho8-159|<>]] ===== 翻刻 ===== 一 若狭の太守武田殿無縁の出家をかかへをかれ/n8-63r   寺なとたて憐愍あさからすされとも其家の   事をしる人正路ならすなにを送らるるもある   ひは半分或は三分一つかはし中にて残す彼   会下僧もよくしりながらさすか国主へ申   あくへきよしになかりしにある歳の暮正月   の菓子に胡桃を千送れとあり然を五百八   十やりたり僧不審に思ひ一首の狂哥を   参らする    下さるるくるみの数も君か代も/n8-63l    目出たかりけり五百八十   大守代官をはし出しくはしくせんさくあれは   あやまる処紛なかりつれとも是は祝儀の哥   をままれし僧の心を感する条今度の科   斗はゆるすとありし/n8-64r