[[index.html|醒睡笑]] 巻8 頓作
====== 38 堺にて質屋に米を十石入置き銭を持ちて来てはその代ほど米を取りて行く・・・ ======
===== 校訂本文 =====
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堺にて質屋に米を十石入置き、銭を持ちて来ては、その代ほど米を取りて行く。たびたびの注文、通(かよひ)に書付け借り主につかはす。
ある時、銭を持たず来たり。「一石ただ渡して給はれ」と言ふ。質屋、心安く思ひ、通に付けずして、一石出だしぬ。
月迫(げつぱく)になり、銭を持ち来たり、残らず米を受け取らんとするに、質に置きたる米一石なし。借り主、盗人をいひかけ、結句(けつく)、「もとの置きたる米にてなくは受け取るまい」と言ふ。その時亭主、「まづ銭を見ん」とて、ただもの選(え)り、「一文も取るべきなし」と言ふ。「何事にや」と尋ぬれば、「わが貸いた((「貸いた」は底本「かいて」。諸本により訂正。))銭が一文もない。もとの米でなくば取るまいとなり。われも、もとの銭でなくば取るまい」と。この作意分明(ぶんみやう)なるなかな。これにてこそすみたれ。
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===== 翻刻 =====
一 境にて質(しち)屋に米を十石入置銭をもちて
来てはその代ほと米を取て行度々の注文(ちうもん)
かよひに書付かりぬしに遣す或時銭をもた/n8-16l
す来り一石唯わたして給はれといふ質屋心
安くおもひかよひにつけすして一石いたしぬ月
迫になり銭を持来り不残米をうけとらん
とするに質に置たる米一石なしかりぬし
盗人をいひかけ結句もとの置たる米にて
なくは請とるまいといふ其時亭主まつ銭
をみんとてたたものえり一文もとるへきなし
といふ何事にやと尋れは我がかいて銭か一文
もなひもとの米てなくはとるまいとなり我も/n8-17r
もとの銭てなくは取まいと此作意分明なるな
かな是にてこそすみたれ/n8-17l