[[index.html|醒睡笑]] 巻7 謡 ====== 4 信長公へ熊野新宮方よりの使者寂静坊といふ参り・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[n_sesuisho7-061|<>]] 信長公((織田信長))へ、熊野新宮((熊野速玉大社))方よりの使者寂静坊(じやくじやうばう)といふ参り。御咄(おはなし)あるみぎり、連一((杉原連一))出仕しけり。 「この座に新宮の使あり。何にても物語をせよ」と御諚(ごぢやう)あるに、追付けて連一、「さて、熊野に一らと申す在所の候ふや」。「いやなし」。「さては寂静は熊野の人にてはあるまじ。熊野にゐる者の、やがて隣の在所一らをさへ知り給はぬほどに」とつむる。「熊野のことは置きぬ。紀州一国に一らといふ所なし」と色((「色」は底本「有」。諸本により訂正。))をそこなひ争ふ時、「二人静((謡曲「二人静」。))に、『一栄一らくまのあたり((二人静「まことに一栄一落まのあたりなる浮世とて」。))』と候ふが異なことや」と申して、大笑ひになせり。 [[n_sesuisho7-061|<>]] ===== 翻刻 ===== 一 信長公へ熊野新宮(くまのしんぐう)方よりの使者寂静(しやくじやう)   坊といふ参り御咄ある砌(みきり)連一出仕しけり   此座に新宮の使ありなににても物語を   せよと御諚有に追付て連一さて熊野に   一らと申在所の候やいやなしさては寂静   はくまのの人にてはあるましくま野に   ゐる者のやがて隣(となり)の在所一らをさへしり   たまはぬほとにとつむるくま野の事はをき/n7-35l   ぬ紀州(きしう)一国に一らといふ処なしと有をそ   こなひあらそふ時二人静に一栄一らくま   のあたりと候がいな事やと申て大笑(わらい)になせり/n7-36r