[[index.html|醒睡笑]] 巻7 似合うたのぞみ ====== 7 山門に僧ありきいと貧しくて鞍馬に七日参りけれど夢も見ず・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[n_sesuisho7-037|<>]] 山門((比叡山延暦寺))に僧ありき。いと貧しくて、鞍馬((鞍馬寺))に七日参りけれど、夢も見ず。ひたもの参り百日といふ夜、夢に、「われは知らず。清水((清水寺))へ参れ」とあれば、清水へ百日参るに、また、「われはえこそ知らぬ。加茂((賀茂神社))へ申せ」となり。 また加茂へ百日参りたれば、夢に、「わ僧はかく参る、いとほしければ、御幣紙(ごへいがみ)・打撒(うちまき)の米ほどの物、たしかに取らせん」と仰せらるると見て、おどろき、「あはれに悲し。かほどのもの何かせん」と思ひながら、もとの坊に帰りてゐたるに、知りたる方より、「もの申さん」と言ふ人あり。見れば、白き長櫃(ながびつ)をになひて、縁(ゑん)に置きて帰りぬ。あやしく思ひ、使を尋ぬるになし。開けて見れば、白き米と良き紙とを、一長櫃入れたり。見し夢のままなり。 こればかりは、いと心憂く思へど、せんかたなく、この米をよろづに使ふに、同じ多さにて尽くることなし。紙も同じごとく使へど失せず。 心長く望みをかけて、もの詣ではせんものよ。 [[n_sesuisho7-037|<>]] ===== 翻刻 ===== 一 山門に僧ありきいとまづしくて鞍馬(くらま)に七日   参りけれど夢も見すひた物参り百日とい   ふ夜夢に我はしらず清水へ参れとあれは   清水へ百日参るに又我はえこそしらぬ加   茂へ申せと也。又加茂へ百日参りたれは夢に   和僧はかく参るいとおしければ御幣紙(へいかみ)う   ちまきの米ほとの物たしかにとらせんと仰(おほせ)   らるると見ておどろきあはれにかなしかほ/n7-23l   との物何かせんとおもひなからもとの坊に帰   てゐたるにしりたるかたより物申さんと   いふ人あり見れは白き長櫃(なかひつ)をになひて   ゑんにをきて帰ぬあやしく思ひ使を尋るに   なしあけて見れはしろき米とよき紙と   を一長櫃入たり見し夢のままなり是斗(はかり)   はいと心うく思へどせんかたなく此米を万   につかふに同じおほさにてつくる事なし   紙もおなしごとくつかへとうせす心なかく/n7-24r   望をかけて物まうではせん物よ/n7-24l