[[index.html|醒睡笑]] 巻5 人はそだち
====== 25 手習ふ子供あまた候ふに坊主昼寝の床より雨は降るか降らぬかと問ふ時・・・ ======
===== 校訂本文 =====
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手習ふ子供あまた候ふに、坊主、昼寝の床より、「雨は降るか、降らぬか」と問ふ時、田夫(でんぷ)の息子見て言ふ、「小糠雨(こぬか雨)が降り参らする」と。坊主、むくと起き、「小雨とも霧雨(きりあめ)とも言はず、こぬか雨((来ぬか雨))はくせごとや」と、立ちながら腹を一つ踏みけり。「あら痛や。みなし腹を食はせられた」。
われならでこの降る雨に誰か来ん誰そとは人をふりて待つかは
雨のついでに恵心の僧都((源信))、坂本にて法談ありつるに、一時かき曇り大雨降りしきり、仮屋の板間あらく漏り、聴衆(ちやうじゆ)立ち騒ぎぬるを見給ひて、
昔より伝へて聞くも今見るももり屋((漏り屋・物部守屋))は法(のり)の障りなりけり
かく詠じ給ふに、虚空に声ありて、
漏る雨に濡れても法(のり)を深く聞け雲も涙を惜しまざりけり
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===== 翻刻 =====
一 手ならふ子どもあまた候に坊主ひるねの床
より雨はふるかふらぬかととふ時田夫(てんぶ)のむすこ
見ていふこぬか雨がふり参らすると坊主むくと/n5-63r
おき小雨ともきりあめともいはすこぬか雨は
くせ事やと立なから腹を一つふみけりあらいたや
みなしはらをくはせられた
我ならて此ふる雨に誰かこん
たそとは人をふりて待かは
雨のつゐてに恵心(ゑしん)の僧都坂本にて法談(ほうだん)
ありつるに一時かきくもり大雨ふりしきりかり屋
の板間あらくもり聴衆(てうしゆ)立さはぎぬるを見
給ひて/n5-63l
昔より伝(つたへ)てきくも今見るも
もり屋は法のさはりなりけり
かく詠じ給ふに虚空(こくう)に声ありて
もる雨にぬれても法をふかくきけ
雲も涙を惜まさりけり/n5-64r