[[index.html|醒睡笑]] 巻5 人はそだち ====== 17 大和の傍らに十市殿とて大名ありしが世に落ちぶれ・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[n_sesuisho5-083|<>]] 大和の傍らに十市殿(とをちどの)とて大名ありしが、世に落ちぶれ、吉野の西川(にしつがう)におはせし時、あたりの者どもを振舞はんと触れらるるやう、「この幾々日(いくいくか)に、誰々(たれたれ)、女中ともにわたり候へ」となり。 山賤(やまがつ)の寄合ひ、「女中とは御器(ごき)のことなるべし。牢人にてましませば、椀などもあるまじ。てんでに持ちて行けや」と言ひつつ、御器を渡しざまに、「これは我らが剥げ女中、剥げ女中」と申して、さし出だした。 二人静に、「にしつがう」といふ正字を弁ぜず、いろいろに書きたるあり。かの滝の東にある村を東川(うのがう)といひ、西にある在所を西川(にしつがう)といひ、かくのごとく書くなり。((底本この段落、数文字下げで小書き。)) [[n_sesuisho5-083|<>]] ===== 翻刻 ===== 一 大和の傍(かたはら)に十市(とをち)殿とて大名ありしが世に   おちぶれ吉野のにしづかうにおはせしとき   あたりの者共をふるまはんとふれらるるやう   此いくいくかにたれたれ女中ともにわたり候へ/n5-59l   となり山がつのよりあひ女中とは御器の事   なるべし牢(ろう)人にてましませばわんなども   あるまじてんでにもちてゆけやといひつつ   御器をわたしさまにこれは我等がはげ   女中はげ女中と申てさし出した     二人静ににしづかうといふ正字を弁ぜずいろいろに書たる     あり彼滝の東にある村を東川(うのがう)といひ西(にし)にある     在所を西川(にしつかう)といひ如此書なり/n5-60r