[[index.html|醒睡笑]] 巻4 唯あり ====== 23 宮仕へする侍あり人まねして清水へ千度詣を二度したり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[n_sesuisho4-111|<>]] 宮仕へする侍あり。人まねして清水((清水寺))へ千度詣(せんどまうで)を二度したり。後、傍輩(はうばい)と双六を打ち負けて、いたく責めければ、「われ持ちたる物なし。清水に二千度参りたるあり。それを渡さん」と言ひけり。聞く人笑ひけるを、勝ちたる侍、「渡さば得ん((「得ん」は底本「え人」。諸本により訂正。))と、その日より精進し、三日といひける日、清水へ連れ参り、言ふままに文(ぶん)書き、御前にて師の僧呼び、ことのよし申させ、「二千度参り某(それがし)に双六に打ち入れつ」と書きて取らせければ、請け取り悦び伏し拝みて出でけり。 負け侍は、思ひかけぬことに捕へられ、人屋(ひとや)にゐにけり。取りたる侍は、徳付き司(つかさ)になりて、たのしくぞありける。 「目に見えぬものも、まことをいたし取りければ、仏あはれと思したりけるなむめり」とぞ、人言ひける。 [[n_sesuisho4-111|<>]] ===== 翻刻 ===== 一 宮つかへする侍あり人まねして清水へ   千度詣(まふて)を二度したり後傍輩と双六を   うちまけていたくせめけれはわれ持たる/n4-63l   物なし清水に二千度参りたるありそれ   を渡さんといひけり聞人笑けるを勝たる   侍わたさはえ人と其日より精進(しやじん)し三日と   いひける日清水へつれまいりいふままに文(ふん)かき   御前にて師の僧よひ事のよし申させ   二千度参某(それかし)に双六に打いれつと書てと   らせけれは請取悦(よろこひ)ふし拝て出けりまけ   侍は思かけぬ事にとらへられ人屋に居に   けりとりたる侍は徳つきつかさに成て/n4-64r   たのしくそありける目に見えぬ物も誠   をいたしとりけれは仏あはれとおほしたり   けるなむめりとそ人いひける/n4-64l