[[index.html|醒睡笑]] 巻4 いやな批判 ====== 5 何者ののぼりくだりに落としたるやらん信濃国の山道に烏帽子あり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[n_sesuisho4-031|<>]] 何者ののぼりくだりに落としたるやらん。信濃国の山道に烏帽子あり。拾ひ来たり、「かやうの姿なる物、世にためしなし。いかさま天人の道具か、山姥(やまうば)などの宝かや。老いたるも若きも、これを見よや、あがめや」と、かちはだしにて走り集まる中に、一人、「これは禰宜の頭巾といふ物ぞ」。一人、「いや、これはあかけうがりの頭(あたま)隠し」と言へば、少しもまことにせず。 「ただ、奥の山の刑部兵衛こそ、若き時、殿の夫(ぶ)にさされて京へのぼりし者なれば、かれに見せずはすむまい」と、はるばる持ち行き見せたれば、「これこそ賀茂の祭に能といふことありしが、一番に出た三番叟(さんばそう)といふ物よ。これこれ、されども、顔か下へが失せたほどに、必定(ひつぢやう)三番叟の抜け殻といふ物ぞ」と。 [[n_sesuisho4-031|<>]] ===== 翻刻 ===== 一 何者ののぼりくたりにおとしたるやらん信濃   国の山道に烏帽子(ゑほし)ありひろひきたり   かやうのすがたなる物世にためしなしいかさま/n4-29r   天人の道具(たうぐ)か山姥なとのたからかや老たる   もわかきもこれを見よやあかめやとかちはたし   にてはしりあつまる中に一人是は禰宜(ねぎ)の   頭巾(つきん)といふ物ぞ一人いや是はあかけうかりの   あたまかくしといへは少もまことにせす唯(たた)奥(おく)の   山の刑部兵衛こそわかき時殿の夫にさされて   京へのぼりし者なれはかれに見せすはすむ   まいとはるはるもち行見せたれは是こそ賀   茂のまつりに能といふ事有しが一番に出た/n4-29l   さんばそうといふ物よこれこれされどもかほか   したへかうせたほどに必定(ひつでう)三ばさうのぬけ   からといふ物そと/n4-30r