[[index.html|醒睡笑]] 巻2 吝太郎(しはたらう) ====== 16 紀州根来に小谷の西原といふ人かたのごとく有徳なりしが・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[n_sesuisho2-085|<>]] 紀州根来((根来寺))に小谷(こたに)((「小谷」は底本「北谷」。諸本により訂正。))の西原といふ人、かたのごとく有徳(うとく)なりしが((底本「が」なし。諸本により補う。))、中間(ちうげん)置かんとする時、内の者に言ひわたすやう、「給分(きふぶん)をば、いかほど値切りて定めよ。日((「日」は底本「目」。諸本により訂正。))に三度の食ひ物はほしいほど食はせん」と、かたく約束をばしながら、一向さはなく、下行(げぎやう)いかにも簡素に、ひもじさやるせなし。 案に相違したるむね訴訟しければ、「さればこそ、始めより『食はほしい((惜しい))ほど』と定めたは。『腹一ぱい食はせう』とは言はなんだ」と。 いづれ身をもつ人の工夫(くふう)は、そともくづがない。   吉野川その水上(みなかみ)をたづぬれば檜原(ひばら)が雫(しづく)槙(まき)の下露 [[n_sesuisho2-085|<>]] ===== 翻刻 ===== 一 紀州根来に北谷の西原と言人かたのことく   有徳なりし中間をかんとする時内の者   にいひわたすやう給分をはいかほとねきり/n2-44l   て定よ目に三度のくひ物はほしいほどくは   せんとかたく約束をはしなから一向さはなく   けぎやういかにもかんそにひもしさやるせなし   案に相違したるむね訴訟しけれはされ   はこそ始より食はほしい程と定めたは腹一   ぱいくはせうとはいはなんたと   いつれ身をもつ人の工夫はそともくずかない    吉野川その水上をたつぬれは    檜原か雫槙の下露/n2-45r