[[index.html|醒睡笑]] 巻2 貴人の行跡 ====== 5 太閤の御時二徳といふ者別して御気に入りたり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[n_sesuisho2-024|<>]] 太閤((豊臣秀吉))の御時、二徳といふ者、別して御気に入りたり。ある朝、「生鶴の汁を食はせよ」とあれば、「愛宕((愛宕(あたご)神社。「愛宕」は底本「愛岩」。諸本により訂正。))精進をいたす。下されまじき」と申し上ぐる。「おのれ我執(がしゆつ)な。何事を祈る」と。「私はただ太閤様の御宿願に候ふ」。「何事を祈るぞ」。「臆病にならせらるるやうに守らせられよ」と。「臆病でよからんことは」。「されば、あまり命知らずに、鉄砲の前(さき)へもかまはせ給はねば、もし当たりて果てさせられては、私は何とならうと存じ候て」と申し上げれば、「さもあらん」との御気色なりし。   慈悲の目に憎しと思ふことはなし咎(とが)あるはなほあはれなりけり ともあれば、天下の主に似合ひたりとや申さん。 [[n_sesuisho2-024|<>]] ===== 翻刻 ===== 一 太閤の御時二徳といふ者別して御気に入   たりある朝生鶴の汁をくはせよとあれは   愛岩精進をいたす下されましきと申/n2-15r   上るをのれかしゆつな何事をいのると私は   たた太閤様の御宿願に候何事をいのるそ   臆病にならせらるるやうにまもらせられ   よと臆病でよからん事はされはあまり   命しらずに鉄砲のさきへもかまはせ給はねは   若あたりてはてさせられては私はなにと   ならふと存候てと申上けれはさもあらん   との御気色なりし    慈悲の目ににくしとおもふことはなし/n2-15l    とかあるは猶あはれなりけり   ともあれは天下の主に似合たりとや申   さん/n2-16r