[[index.html|醒睡笑]] 巻1 無智の僧
====== 1 幼少よりつひに経に向うたることもなかりし坊主千部の経に座列するあり・・・ ======
===== 校訂本文 =====
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幼少より、つひに経に向うたることもなかりし坊主、千部の経に座列(ざれつ)するあり。よく
案内(あんない)知りたる人、そと近寄り、「そちは何事を言うて、一座の役とは勤むるぞや」。「さればとよ。一首歌を詠みたるが、それを吟じて理をすますは。われ、師匠に習ひて覚えたる文、ただ一つあり。いはゆる『阿耨多羅三藐三菩提(あのくたらさんみやくさんぼだい)』なり。このほかはなし。
「その歌は」と問はれてなむ、
阿耨多羅三藐三菩提こそ仏なれ残る文字ども大人(おとな)だてして
恥といふことを知らぬ、あのくたらよみやへれ((底本この行、和歌より一字程度下げで小書き。))。
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===== 翻刻 =====
無智之僧
一 幼少よりつゐに経(きやう)にむかふたる事もなかり
し坊主(はうす)千部の経に座列(されつ)するありよく
案内(あんない)しりたる人そとちかよりそちは
何事をいふて一座(さ)の役(やく)とはつとむる
そやされはとよ一首(しゆ)哥(うた)をよみたるかそれ
を吟(きん)して理をすますはわれ師匠(ししやう)に習(なら)
ひて覚(おほ)えたる文唯一つありいはゆる
阿耨多羅(あのくたら)三藐(みやく)三菩提(ほたい)也此外はなし/n1-60l
其哥はととはれてなむ
あのくたら三みやく三ほたいこそ仏なれ
のこる文字ともおとなたてして
恥といふ事をしらぬあのくたらよみやへれ/n1-61r