[[index.html|醒睡笑]] 巻1 ふはとのる
====== 4 卜都検校叡山にて大衆集会のみぎり平家ありし・・・ ======
===== 校訂本文 =====
[[n_sesuisho1-090|<>]]
卜都検校(ぼくいちけんげう)((牧一・木一))、叡山((比叡山延暦寺))にて大衆集会(だいしゆしふゑ)のみぎり、平家((平家琵琶))ありし。「山法師をりのべ衣うすくして恥をばえこそかくさざりけれ」とあるを、「いかに心の凉しかるらん」となほして語りけり。その時、大衆「あつ」と感じ、平家過ぎて同音に讃めつるを、大きに慢じ山を下りたるが、思ひのほかにはかに日の暮れぬるまま、灯のあるをたより、宿を借りぬ。
亭(てい)出でて挨拶し、すなはち一句所望せしを((「せしを」は底本「を」なし。諸本により補う。))、あなどりて、あそこここ落し語りける時に、亭主、
鶯の声ばかりして一の谷平家は落ちて聞かれざりけり
この歌を吟ずる間に、もとのごとく天地の明らけし。
これは、この検校自慢の心より、天狗の所為(しよゐ)なりとぞ。
[[n_sesuisho1-090|<>]]
===== 翻刻 =====
一 卜都検校(ほくいちけんきやう)叡(ゑい)山にて大衆集会の砌平家
ありし山法師をりのべ衣うすくして恥(はぢ)を/n1-40l
はえこそかくさざりけれとあるをいかに心の
凉しかるらんとなをしてかたりけり其時大
衆あつと感し平家過て同音にほめつる
を大に慢し山を下りたるか思ひの外俄に
日の暮ぬるまま灯のあるをたより宿を
かりぬ亭出てあいさつし即(すなはち)一句所望せし
あなどりてあそこここおとしかたりける時
に亭主
うくひすの声はかりして一の谷/n1-41r
平家はおちてきかれさりけり
此哥を吟するまにもとのことく天地のあきらけし
是は此検校自慢の心より天狗の所為也とそ/n1-41l