[[index.html|醒睡笑]] 巻1 謂へば謂はるる物の由来 ====== 22 鬼に瘤を取られたといふこと何ぞ・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[n_sesuisho1-021|<>]] 「鬼に瘤を取られた」といふこと何ぞ。 目の上に大きなる瘤を持ちたる禅門ありき。修行に出でしが、ある山中に行き暮れて宿なし。古き辻堂(つじだう)に泊まれり。夜すでに三更に及ぶ。人音(ひとおと)あまたして、かの堂に来たり酒宴をなす。禅門、恐しく思ひながら、せんかたなければ、心浮きたる顔し、円座(ゑんざ)を尻につけ立ちて踊れり。 明方になり、天狗ども帰らんとする時言ふ。「禅門、浮き蔵主(ざうす)にて、よき((「よき」は底本「まき」。諸本により訂正。))伽(とぎ)なり。今度も必ず来たれ」と。「約束ばかりは偽りあらん。ただ質にしくはあらじ」とて、目の上の瘤を取りてぞ行きける。 禅門、宝をまうけたる心地し、故郷に帰る。見る人感じ、親類歓喜すること量りなし。 [[n_sesuisho1-021|<>]] ===== 翻刻 ===== 一 鬼(おに)に癭(こぶ)をとられたといふ事なんそ目の上   に大なるこぶをもちたる禅門ありき修行(しゆぎやう)に   出しか有山中に行暮(ゆきくれ)て宿なし古(ふるき)辻堂(つしとう)にと   まれり夜すてに三更(かう)におよふ人音(をと)数多(あまた)   してかのだうに来り酒ゑんをなす禅門お   そろしくおもひながらせんかたなけれは心うきた   るかほし円座(ゑんさ)を尻につけたちておとれり   明かたになり天狗(く)ともかへらんとする時いふ禅   門うき蔵主(さうす)にてまき伽(とき)也今度もかならす/n1-12l   きたれとやくそくはかりはいつはりあらんたた   しちにしくはあらしとて目の上のこふを取   てそ行きける禅門たからをまうけたる心地し   故郷に帰る見る人かんじ親類(しんるい)歓喜(くはんき)する   事はかりなし/n1-13r