撰集抄 ====== 巻8第24話(99) 花山院(歌) ====== ===== 校訂本文 ===== 花山院((花山天皇))の、道心のおこり給へりけるころ、御堂の御殿((藤原道長。底本「御室の御殿」。諸本により訂正。))の御方より、紅梅のことに色も薫も妙(たへ)に侍りけるを、一枝参らせける御返事に、   色香をば思ひも入れず梅の花つねならぬ世によそへてぞ見る と詠み給へりける。あはれに侍り。 常なき世には、色をも香(か)をも思ひ入れじ。花も世も、常ならましかば、花にも香にも心をとめましものを。げに、無常を思し召し、しめさせ給へりける、いとかたじけなくぞ思え侍る。 「御堂の御殿((藤原道長。底本「御室の御殿」。諸本により訂正。))も、ことにあはれに思えていまそかりけるままに、そぞろに御袖を濡らさせ給へり」と、伝へ承り侍りし。 ===== 翻刻 ===== 花山院の道心の発り給へりける比御室の御殿の 御方より紅梅の殊色も薫も妙に侍りけるを 一枝まいらせける御返事に 色香をはおもひもいれす梅のはな/k251l つねならぬ世によそへてそみる と読給へりける哀に侍り常なき世には色をも 香をも思入し花も世も常ならましかは花にもかに も心をとめまし物を実無常を思食しめさせ給へり けるいとかたしけなくそ覚侍る御室の御殿も殊 哀に覚ていまそかりけるままにそそろに御袖をぬ らさせ給へりと伝承侍し/k252r