撰集抄 ====== 巻8第7話(82) 楽天詩 ====== ===== 校訂本文 ===== 昔、唐国の白楽天((白居易))、言の素直過ぎたるによて、潯陽の江のほとりに遷(うつ)され侍りけるに、   官途自此心長別   世事従今口不言((「口」は底本「日」。諸本により訂正。)) と作り給へりければ、海竜、海の面に浮びて、涙を流して、大きなる声して、「あはれ、世の素直ならましかば」とて、波に入り侍りけり。 げにも、にごらぬ君にてましまさば、さこそ寵愛も侍るべきに、あまさへ左遷に行はれ侍ること、唐国も無下に心おとりしてこそ思え侍れ。 ===== 翻刻 ===== 昔唐国の白楽天言のすなをすきたるによて 尋陽の江のほとりに遷され侍りけるに官途 自此心長別世事従今日不言と作り給へ りけれは海龍海の面にうかひて泪をなかして 大なる声してあはれ世のすなほならましかはとて 波に入侍りけりけにもにこらぬ君にてましまさ はさこそ寵愛も侍へきにあまさへ左遷に行は/k237l れ侍る事唐国も無下に心おとりしてこそ 覚侍れ/k238r