撰集抄 巻1 ====== 巻1目録・序 ====== ===== 校訂本文 ===== ** 巻1目録 ** 増賀聖人 祇薗示現(御歌) 無縁僧帷返 七条皇后(長歌) 宇津山僧 越後上村見 新院御墓 行賀切耳 ** 序 **   撰集抄第一 生死の長き眠り、いまだ醒めやらで、夢にのみほだされつつ、水の面の月をまことと思ひ、鏡の内の影を「げに」と深く思ひ入りて、明け暮れはただ妄の心のみうちつづきて、生死の船をよそへずして、屠所の羊の歩みは、わが身の外にもて離れ、鳥部・舟岡の煙をよそに見て、過ぎにし方、四十余年の霜をいただき、行く末知らず、今日にしもやあるらむ。 しかれば、同じ夢のうちの遊びにも、新旧の賢こき跡を撰び求めける言の葉を書き集め、『撰集抄』と名づけて、座の右に置きて、一筋に知識にたのみ申さむとなり。 巻は九品の浄土に思ひあて、十に一をもらし、ことは八十随好に思ひよそへて、百に二十を残せり。 そもそも、凡夫の習ひ、明眼しひて真月を見ず。心乱れて、断妄の利剣おこらざる物なり。されば、ひとへに冥助を仰ぎ奉らんがために、巻ごとに神明の御事をしるし載せ奉るに侍り。 ===== 翻刻 ===== 僧賀聖人 祇薗示現(御歌) 無縁僧帷返 七条皇后(長哥) 宇津山僧 越後上村見 新院御墓 行賀切耳/k4r 撰集抄第一 生死の長き眠いまた醒やらて夢にのみほたされ つつ水の面の月を実とおもひ鏡の内の影をけ にとふかく思入て明暮はたた妄の心のみ打つつきて 生死の船をよそへすして屠所のひつしの歩は我身の 外にもてはなれ鳥部舟岡の烟をよ所にみて過にし 方四十余年の霜をいたたき行末不知今日にしもや 有らむしかれは同夢のうちの遊にも新旧の賢跡を 撰求けることの葉を書集め撰集抄と名て座の 右に置て一筋に知識に憑み申むと也巻は九品の/k4l 浄土に思宛十に一をもらし事は八十随好に思よそへ て百に廿を残せり抑凡夫のならひ明眼しゐて真月 をみす心乱れて断妄の利釼おこらさる物なりされは 偏に冥助をあをき奉らんか為に巻毎に 神明の御事を注載奉るに侍り/k5r