蒙求和歌 ====== 第14第48話(248) 婁敬和親 ====== ===== 校訂本文 ===== ** 婁敬和親 ** 婁敬((後に劉邦から姓を賜わり劉敬となる。))は斉の人なり。 洛陽に来たりて、輓輅の轄を抜きて、漢の高祖((劉邦))を勧めて、「都を関中に移し給へ」と申しけり。後に、建信侯になされにけり。 時に、匈奴(えびす)の王単于((冒頓単于。通常「ぜんう」と読むが、底本「タムウ」と読み仮名あり。))、兵(つはもの)を起して、国に乱れ、ことごとく憂へける。婁敬、申していはく、「長公主をもて、彼に妻に合はせ給はば、よろしかるべき」よしを申せり。 漢祖后(きさき)、呂太后((呂雉))、昼夜(ひるよる)泣きて、憂へて、「われは、ただ、太子と一女とのみあり。いかでか匈奴国に捨てむ」と言ひて、つひに家人の女(むすめ)を取りて、長公主と名付けて、単于に合はせられにけり。 長公主は漢祖の女(むすめ)なり。輓輅は、一木横鹿車、前二人これを挽き、一人推しといへり。   波の音ものどかになりぬ渡し守あぶくま川のしるべせしより ===== 翻刻 ===== 婁(ロウ)敬和親  〃〃ハ斉ノ人也洛陽ニキタリテ輓(ヘム)輅(ロ)ノ/轄(ヒ)ヲヌキテ漢ノ高祖ヲススメテミヤコ ヲ関中ニウツシタマヘト申ケリ後ニ建信侯ニナサレニケリトキニ 匈奴(エヒスノ)王単(タム)于(ウ)ツハモノヲヲコシテ国ニミタレコトコトクウレヱケル/d2-54l 婁敬申シテイハク長公主ヲモテカレニ妻ニアハセタマハハヨロシ カルヘキヨシヲマウセリ漢祖キサキ呂大后ヒルヨルナキテウ レヘテワレハタタ太子ト一女トノミアリイカテカ匈奴国ニス テムトイヒテツヒニ家人ノムスメヲトリテ長公主トナツケテ単 于ニアハセラレニケリ 長公主ハ漢祖ノムスメナリ 輓輅ハ一木横鹿車前二人挽之一人推シト云ヘリ ナミノヲトモノトカニナリヌワタシモリ アフクマカハノシルヘセシヨリ/d2-55r