蒙求和歌 ====== 第14第30話(230) 毛宝白亀 ====== ===== 校訂本文 ===== ** 毛宝白亀 ** 毛宝は江のほとりにて、漁人の白亀釣りたるを見て、あはれみて、贖(あか)ひて((底本「アナヒテ」。文脈により訂正。))、江に放ちて、後(のち)に石虎将軍と争ひ戦ふに、負けて江に落ち入りぬ。「怪し」と思ひて見れば、昔放ちし亀なりけり。甲の長さ四尺ばかりなりと言へり。 晋書にいはく、「毛宝、市に至るに、白亀の四・五尺ばかりあるを売る者あり。毛宝、これを買ひ取りて、助け養ひて、大きになして、江に放ちて、その後、邾城の軍(いくさ)に落ちて、毛宝が兵(つはもの)六十人、江に溺れて死ぬ。毛宝、鎧(よろひ)を着、刀を抜きて、江に落ち入りぬ。大きなる((「大きなる」は底本「□ホキナル」で一字虫損。書陵部本により補う。))石に((「石に」は底本「イシ□」で一字虫損。書陵部本により補う。))居たる心地して、東の岸に至り着きて、助かりぬ。「怪し」と思ひて見るに、昔放ちし亀の、五・六尺ばかりになりて、毛宝を助けける」と言へり。   年を経て思ひ放ちし川亀(かはかめ)のめぐりあふ瀬の浅からぬかな ===== 翻刻 ===== 毛宝白亀  〃〃ハ江ノホトリニテ漁人ノ白/亀ツリタルヲ見テアハレミテアナ ヒテ江ニハナチテノチニ石虎将軍トアラソヒタタカフニ マケテ江ニヲチイリヌアヤシト思テミレハムカシハナチシカメ ナリケリコウノナカサ四尺ハカリナリトイヘリ晋書ニイハク 毛宝イチニイタルニ白亀ノ四五尺ハカリアルヲウルモノア リ毛宝コレヲカヒトリテタスケヤシナヒテヲホキニナシテ 江ニハナチテソノ後邾(シユ)城ノイクサニヲチテ毛宝カツハモノ六 十人江ニヲホレテシヌ毛宝ヨロイヲキカタナヲヌキテ江ニヲチイ リヌ□ホキナルイシ□ヰタルココチシテヒカシノキシニイタリツキテ/d2-49r タスカリヌアヤシトヲモヒテミルニムカシハナチシカメノ五六尺 ハカリニナリテ毛宝ヲタスケケルト云ヘリ トシヲヘテヲモヒハナチシカハカメノ メクリアフセノアサカラヌカナ/d2-49l