蒙求和歌 ====== 第13第8話(188) 泉明把菊 ====== ===== 校訂本文 ===== ** 泉明把菊((通常は「淵明把菊」)) ** 晋の泉明は陶潜((陶淵明))か字(あざな)なり。琴・詩・酒を好みし人なり。門には五本(いつもと)の柳を植ゑて、春の心をなぐさめ、みぎりには一本の菊を作りて、秋の友とぞ頼みける。 九月九日に酒なかりければ、一人、菊を摘みて居たりけるに、ややひさしくあて、白衣の人来たり。王弘がもとより、酒を贈れる使ひなりけり。泉明、飲みて酔ひにけり。琴を弾きて、心ざしをあらはしけり。 泉明、もとは淵明なり。淵字を泉になせることは、唐高祖((李淵))の諱を去るゆゑなり。宋朝には旧に複すと言へり。   問ふ人をいくたびばかり嬉しとか籬(まがき)の菊に数ををらまし ===== 翻刻 ===== 泉明把菊  晋ノ泉明ハ陶(タウ)潜(セン)カアサナナリ琴詩/酒ヲコノミシ人なり門ニハイツモトノ 柳ヲウヘテ春ノ心ヲナクサメミキリニハ一本ノ菊ヲツクリテ秋 ノトモトソタノミケル九月九日ニ酒ナカリケレハヒトリ菊ヲ ツミテヰタリケルニヤヤヒサシクアテ白衣ノ人キタリ王弘カモ トヨリ酒ヲヲクレルツカヒナリケリ泉明ノミテエイニケリ 琴ヲヒキテ心サシヲアラハシケリ泉明モトハ渕明ナリ渕字ヲ 泉ニナセル事ハ唐高祖ノ諱ヲサルユヘナリ宋朝ニハ複旧ト云リ トフ人ヲイクタヒハカリウレシトカ マカキノキクニカスヲヲラマシ/d2-34r