蒙求和歌 ====== 第13第7話(187) 左慈擲杯 ====== ===== 校訂本文 ===== ** 左慈擲杯 ** 左慈、若き時に、五経をたづさはり、六甲通じ、星気に明らかにして、鬼神を使ひけり。 おほやけ((曹操))、これを聞き給ひて、召して、酒を勧めらるるに、冬天冴え寒かりければ、酒を暖めけるに、酒を暖め過ぐしてけり。左慈、簪(かむざし)を抜きて、酒を攪(か)くこと、物を摩するがごとし。 さて、飲み終りて、杯(さかづき)を屋の棟(むね)に投ぐるに、かかりて着きて、動くこと飛ぶ鳥の形のごとし。やや久しくして、地に落ちぬ。諸人、杯を見るほどに、左慈をば見失ひてけり。   天の原雲居に見えしさかづきは山の端出づといはぬばかりに ===== 翻刻 ===== 左(サ)慈(シ)擲(テキ)杯(ハイ)  〃〃ワカキトキニ五経ヲタツサハリ六甲(カウニ)/通シ星気ニアキラカニシテ鬼神ヲツカヒ ケリヲホヤケコレヲキキ給テメシテ酒ヲススメラルルニ冬天 サエサムカリケレハ酒ヲアタタメケルニ酒ヲアタタメスクシテケリ 左慈カムサシヲヌキテ酒ヲ攪(カク)コト物ヲ摩スルカコトシサテノミ ヲハリテサカツキヲヤノムネニナクルニカカリテツキテウコク/d2-33l コトトフトリノカタチノコトシヤヤヒサシクシテ地ニヲチヌ諸人 サカツキヲミルホトニ左慈ヲハミウシナイテケリ あまのはら雲ゐにみへしさかつきは やまのはいつといわぬはかりに/d2-34r